呪われた2体の人形とともに、俺はこのステージでの最後のサプライズプレゼント、もとい試練の最後の扉の前にいる。順番的に、ここは亮平さんとランボだろうし比較的危険度は低い…はず。そもそも誕生日に俺はなんでこんなびくびくしなくてはならないのか。今日という日にこんなことを繰り返し考えるなんて本当に不幸なことだ。毎年こうなんだからもう祝ってくれなくていいよほんと。…でもかわいい彼女に情けないヤツと思われるのも嫌な俺は、仕方なく目の前の黄色い扉を開くのだった。

パアン!

「お誕生日おめでとうございます、ボンゴレ」
「極限にめでたい!めでたいぞ沢田!!!!」


クラッカーと一緒に、ランボと良平さんが笑顔で飛び出してきた。

「あ、ありがとうございます…」
「ボンゴレ、俺からのプレゼントはこの万年筆です。ぜひ使ってください」
「え、あ、ああ、ありがとうランボ」
「沢田!オレからはこのグローブだ!体を鍛えるのはいいことだぞ!」
「はあ、どうも、ありがたくいただきます」

…あれ?

「…あの、」
「どうした沢田!」
「何か問題でも?」

どうしたっていうか…問題っていうか…なんか、あまりにも普通に祝われてて俺どうすれば…。

ボンゴレ式バースデーっていうのは誕生日とは名ばかりの苦行のことのはずなんだけど。ここまで俺は苦行を乗り越えてきたはずなんだけど。…あれえ?なんか、クラッカーとかふつうだし、プレゼントも…良平さんのグローブはちょっとシュミ出まくりだけどまあ普通だし、ランボの万年筆なんかふつーにうれしい。…え、俺のこと喜ばせてるのこれ…!…なんで…!誕生日は祝われて普通なのに、ボンゴレ式で祝われることになってからというもの「誕生日とは苦行」と思い込んでいたせいで、ふつうに祝われたら祝われたでなんだか戸惑ってしまう。いや、これ絶対正しい反応じゃないよね!

とそれはさておき、

「ありがとう、ふたりとも。俺、ほんとにうれしい!」
「そうか!喜んでもらえて何よりだぞ!な、ランボ!!」
「はい、一生懸命、贈り物を考えてよかったです!」


自分の誕生日みたいにうれしそうに笑う良平さんとランボ。じんわりあったかくなる心に、誕生日の本来のかたちを思い出す。そうそう、こういう心温まる誕生日を過ごしたいんだよ俺。じーんとその感動に浸る俺に、きりっとした顔つきで良平さんが口を開いた。

「沢田、ここがこの階では最後だ。ここを出てすぐにある階段で、上の階へ行け」

…そうだ、これで終わりじゃないんだった。

「…あ、そうですね、さっさと終わらせます」
「次の2階でふたつの扉を制覇すれば、あとは3階のホールでゴールだぞ。気合いを入れろ!沢田!!」


あと2部屋…終わりが見えてきたああ!!
俺はもう一度良平さんとランボにお礼を言って部屋を出ようとした。
その時、

「…あと…少し…ね、」

ぞくっと背筋がふるえた。またあの声だ。
近くにいる、でもどこにいるのかは分からない。
俺は喉の奥がからからに乾くのを感じながら、声を絞り出した。

「あの、良平さん」
「ん?どうした沢田、行かんのか!」
「いえ、そうじゃなくて…ここへ来てから、何か変なものを見たり、聞いたりしませんでしたか?」
「変なもの…?いや、ないが」
「そうですか…ランボは?」
「オレもありませんよ。…確かにここ、不気味で何か出そうではありますけどね。あはは」
「そう…」


やっぱり、俺にしか聞こえない。見えてもいない。これじゃあ俺が何を言っても誰も信じないし、ましてはパーティーが中止になることもないだろう。俺としてはもう撤収したいんだけども。ゴールして真相をリボーンに聞こうと決意したものの、俺はやっぱり恐怖心に揺らいでいた。目には見えないけど、確かにいるもの。目には見えても、実際には存在しないもの。…どちらにせよ、結局はゴールしなければならないことに変わりはないのだけど。

「じゃ、俺行きますね」
「ああ!…沢田、気をつけろよ」
「…え?」
「ボンゴレ、早く行ってください。あんまり時間をかけすぎると、またリボーンのやつがうるさいですよ」
「あ、う、うん」


ランボに急かされて退出してしまったけれど―――――良平さんの意味深な「気をつけろ」は、一体何を意味してるんだ?

***

「笹川氏!余計なことは言うなってリボーンにさんざん言われたじゃないですか!」
「ああっ、すまんすまん!だが2階の緑の部屋はアイツらが担当だろう。少し心配でな!」
「そりゃそうですけど…今日はボンゴレの誕生日なんです。いくらなんでもひどいことはしないでしょう」
「それもそうだな!では我々もホールへ行こう!」
「はい!」


リボーン指示でのボンゴレ式パーティーにおいて、いわゆる普通のお祝いをしたのはこの2人だけであった。

塗られたボンゴリアンバースデー