「うわっ、マジでなんか出るんじゃないのこれ…」

洋館に足を踏み入れると、まああの外観にふさわしい“いかにも”な内装だった。
広い玄関ホールで俺は冷や汗が背中を伝うのをはっきりと感じた。

もともとこういう古い館だったのか、今回のためにリボーンが建てたのか…いわくつきとかだったらいやなので、リボーンが建てたと思おう。激しい思い込みも時には必要!……そうでもしなきゃむり!…はー、マジこええ。そんなことを考えながら、俺は中央にどどーんと鎮座している枯れた花が活けられた花瓶に、メッセージカードがあるのに気づいた。…ほんとお祝いに罰当たりなことしてくれるね。やれやれと花瓶に近づき、メッセージカードを手に取る。

……血文字だった。

「うおおおおおお何これえええええええ!!!!」

いや、血のりなのは分かってるけど!あの入口の扉についてた俺の顔(スピーカー)にもついてたけど、血の臭いはしなかったし。……にしたって気持ち悪いよ!こういう時はほんとホンモノ志向だから、一瞬マジで血かと思ったけど。やれやれ、と血文字メッセージカードの内容を読む。

「……『正面の大階段を上って、右手に進んでください。青い扉を見つけたら、中に入って下さい』?」

正面には確かに大階段がある。なんかいやーにまがまがしいオーラを放っている。でも先に進まなくちゃどうにもならないし……ここに一人でいつまでも突っ立ってんのもなんてゆーか……こわい。のでちゃっちゃか行こう!と俺は大階段を駆け上った。はやく終わらせよう、こんな心身ともに衰弱しきってしまうような苦行は。そして俺は指示通り右手に進んで、このおばけ屋敷風な内装には釣り合わない真新しい扉を見つけた。青い扉、完全にこれである。

「…どきどきするなあ…」

そう呟いて深呼吸をすると、俺は意を決してドアノブに手をかけた。
すると、何かぬるっとしたもののせいで手がすべってしまった。

「ちょっとー、パーティーの時には掃除はいつも最後にちゃんと確認しなくちゃダメって…ゆって、る…」

きゃああああああああ!!!!うっかり女の子のような悲鳴を上げてしまった。
でも俺が驚くのも無理ないはずだ。だって手のひらをみると、そこには真っ赤な血が…!

「ってこれ血じゃないから!血のりだから!」

もうほんと、分かっててもこういうのは心臓に悪いからやめてくんないかなあ…。ポケットからハンカチを取り出し、血のりが付いた手をきれいに拭う。そしてハンカチを持ったままドアを開けようとノブに再度手をかけようとしたのだが……なぜかドアノブには血のりがついていない。ついていた痕跡もない。銀色にぴかぴか光っている。ぞぞぞと一気に鳥肌がたった。マジでなんか憑りつかれるここ!リボーンが建てたんじゃないガチな幽霊屋敷だ!え…じゃあさっき俺の手についてたのって…ほんものの…!ここまで考えて俺は本当にこわくなり、少なくとも誰かしら俺の仲間がいる目の前の部屋に飛び込んだ。

パァアン!

「10代目!おめでとうございます!!」
「ハッピーバースデー!ツナっ」


はらはらと目の前で舞う紙ふぶき。そしてクラッカーを持ってにこにこしている獄寺くんと山本。
心底俺はほっとした。そうそう、こういうのだよ誕生日って!
俺は今の今まで鳥肌たててびびってたのを忘れて、ふたりの笑顔につられるようにして笑った。
…やっぱり持つべきものは友達だよね!

「ふたりとも、ありがとう!!」
「10代目が今日という日を無事にお迎えになって、オレは…オレは…!!」
「泣くなよ獄寺、プレゼント渡さなくちゃツナ先に進めねーんだからさ」
「て、テメーに言われなくたって分かってんだよ!!」
「まっ、まあまあ獄寺くん落ち着いて!」


こ、この子たち俺の誕生日祝う気あるのかしら…なぜケンカする?!そしてなぜ俺が仲裁に!
そう思いながらも、ふたりはこの10数年間ずっと俺と一緒に戦ってきてくれた友達で、仲間だ。
友達なんていなかった俺の、初めての親友。今年もふたりが俺を(たぶん)祝ってくれてうれしい。
獄寺くんはぶつくさ山本に文句を言っていたが、俺の一声で大人しくなった。

「よしっ、じゃあツナに最初のプレゼントな!」
「それはオレが言うっつっただろ!!」
「はいはい、じゃあ渡すのはお前でいいから」
「ったりめーだ!では10代目、お納め下さい!!」


というやりとりのあと獄寺くんから渡されたのは…

「……えっと、これなに?」
「アルバムです!」
「うん、それは分かるんだけど…この写真は?」
「写真はオレが選んで編集もしました!山本の野郎は写真をアルバムに貼っただけです!」
「だけってことはないだろ。ツナ、アルバムにペンで写真の説明書いたのもオレだぜ」
「いやそうじゃなくて…!」

「はい!」
「ん?」

「……いや、なんでもないよ…あ、ありがとう!」


もったいないお言葉です10代目!とくにこの山本には!お前さっきからうるせーよ獄寺。ツナ、喜んでもらえてよかったぜ!とかいうふたりの声は右から左にすり抜けていった。…え、いや…なんで俺プレゼントに自主製作の俺の写真集もらってんの?というかどうしてふたりはこれを俺に贈ろうと思ったの…?まあ痛いようなことなくってよかったけども…正直いらねえええ。しかも『ツナ、仕事をサボってぼーずにシメられる』、『ツナ、食事中に居眠りしてぼーずに蹴られる』……マジなにこれ!!どの写真も俺見切れてるうえにリボーンから暴力うけてるのしかないじゃん!ますますいらないんだけど!!……でもこのふたり的にはがんばって用意してくれたんだよな…一応。獄寺くんは写真を編集までしたって言うし。まあなぜこういう写真ばかりを選んでさらには編集なんてしたのか分かんないけど。山本だって、こんなぶ厚いアルバムの中の写真ぜんぶに説明文つけるなんて大変だったろう。…全文似たようなのばっかだけど。でも、頑張って用意してくれたことには変わりないもんな…。

「あの、ふたりともほんとにありがとう」
「いえっ、滅相もございません!!喜んでいただけて光栄です!」
「そうそう、お前が喜んでくれたらそれでいーんだって。礼なんて言うなよ」


また獄寺くんが山本につっかかったけど、これも昔から今も変わらない“苦労もある(いや、むしろ苦労と苦痛が9割と言いたいくらいだ)けど、楽しい日常の一コマだ。ケンカするほど仲がいいっていうし!俺はにこにことふたりのやりとりを見つめた。が、いつまでもそうしているわけにもいかない。ほんとは痛いことこわいことなしの今のうちにさっさと帰りたいが、帰るならも一緒じゃなきゃ意味ない。それからが俺の本当の誕生日だ!放っておけばいつまでも軽口をたたきあっているだろうふたりに、次はどうすればいいか聞いた。

「ああ、次な。ここ出て奥の廊下をまっすぐ進むと、今度は黄色の扉だ」

「10代目ならすぐにホールに着いちまいますよ!頑張って下さいね!」

「うん。に早く会いたいしね。じゃあもう行くよ……あ、そうだ。おどろおどろしい感じにしたいんだろうけどさ、ドアノブに血のりなんかつけんなってリボーンに言っといてくれない?手もハンカチも真っ赤になっちゃって、たまったもんじゃないよ。洗濯してくれるうちのメイドさんにだって迷惑だしさ」

「血のり、スか」
「悪いけどオレたちは知らねーな、血のりなんて」
「え?じゃあこれ見てよ、手もハンカチも真っ赤だろ?」


そう言って俺は手のひらとポケットにつっこんでいたハンカチを見せた。
すると獄寺くんと山本はますます怪訝な目で俺を見て、言った。

「手もハンカチも何もついてませんけど」
「そんなはず――――なんで?さっきは確かに…!」
「おいおい、まだ一つめだぜ?もうへばっちまったのかよ」


そんなはずはない。俺は確かに血のりがついたドアノブを見たし、それに触った。手はハンカチで拭いたものの完全には落ちなかったし、だいいち拭ったハンカチにはべったりと血のりがついているはずだ。なのに、獄寺くんの言う通り俺の手もハンカチもきれいなままだ。山本が心配そうに俺の顔をのぞきこんでくる。でも俺は確信した。ここはただの古い洋館ではないと。こうなるとあれは血のりなんかじゃなく、この屋敷に憑りつく幽霊が俺にみせた本物の血だったんじゃないだろうか。ぞぞぞとまた鳥肌がたってきた。

「…いや、俺の勘違いだよ。ここめちゃくちゃ不気味じゃん」
「そうっすね。まあでもリボーンさんが会場はここがふさわしいって仰ってたんで、間違いないっスよ!」
「ぼーずはイベントプランうまいもんなー」
「ったりめーだろリボーンさんだぞ!!」
「…じゃあ俺、次行くね」
「はいっ、いってらっしゃいませ!!オレたちはゴールでお待ちしてますッ!!」
「ツナ、がんばれよな」
「うん、ありがとう」


……これはリボーンプロデュースの苦行なんてまだかわいいもので、この屋敷に憑いてるものがいちばん厄介なんじゃ…?マジでこわいんだけど…!おばけとかそういうのって俺ガキのころから苦手なんだよ〜。しかも俺にしか見えないってどういうことなの?…まさかリボーンついに幽霊までうちに引き入れたわけ?!むりむりむり俺がむり!っていうか本当ならありえないけど、リボーンならマジで幽霊だって仲間に引き入れることができるんじゃないかと思うだけの信じらんないことをなしてきた実績があるからな…。ともあれ、リボーンに真相を確かめるためにはゴールしなければ!それにおそらくこの様子だってはリボーンと一緒に見てるはずだ。

…かっこいいとこ見せなくちゃ!

塗られたボンゴリアンバースデー