悪魔による、(本来ならば俺のためのはずである)悪魔のための誕生日パーティー当日がやってきてしまった。 喜ぶどころか、何が起こるか分からない恐怖と緊張で俺の胃は爆発寸前だ。 でも、喜ぶべきこともたったひとつだけある。 に会うなというリボーンの言葉なんか無視して俺は何度かお屋敷を訪ねたが、本人ではなくメイドさんに「綱吉様とはバースデーパーティーまでお会いしないと、様が仰せですのでお通し出来ません」なんて冷たく追い出されてしまった。電話も同様、メールだけは本人が返してくれたけど、内容はすべて一緒だった。『綱吉さんのお誕生日までは、話すことも会うこともないです』という一行メールを、俺はここ数日毎日のように受け取った。会いたいと言っても無駄だと分かって苦しまぎれに送った『今日いい天気だね』にさえその返事だ。俺の精神はボンゴリアンバースデーへの恐怖との冷たさにすっかり疲弊しきっている。 けど、それももう終わりだ! なんといっても今日さえ乗り切れば、また俺はとの幸せな日々に戻れるわけだ!…まあ、このボンゴリアンバースデーがなければこんなことにはならなかったわけだけど、今さっき届いた『綱吉くん、今日はきっと楽しい1日になるよ』というのメールからして今年はそんなにひどいことはなさそうだし、何よりもパーティーを楽しみにしているようだ。実は心配でこっそり準備をしているの様子を京子ちゃんやハルから聞いていたのだけど、とっても楽しそうだし、何より(一部を除く)俺が信頼しているボンゴレの仲間と一緒に俺の誕生日を祝えるのがうれしいと言っていたそうだ。……うう、やっぱりっていいこ…!俺にはお前しかいないよ…! そういうわけだから、俺は死ぬ気でこのパーティーを乗り切ってみせる!! と張り切って指定された会場――――なにこれ一応バースデーパーティーの会場なのにめちゃくちゃおどろおどろしいんだけど!!――――に到着した俺。ちなみに送迎はなし。俺は自分で車を運転して、この森の中の見るからになんか出そうな怪しい洋館にまでやってきた。というのに、出迎えもいない。…これマジで俺の誕生日パーティー(仮)なの…?まあリボーンが言う“ボンゴレ式”の誕生日パーティーに、普通のパーティー期待したってしょうがない。…プレゼントらしいプレゼントもケーキもないっていうのはもう想定しておくから、せめてただでさえギリギリな俺の胃に優しい感じで祝ってほしい。…これも無理な話か、アハハ。乾いた笑い声をあげながら、俺はふらふらと見るからに重厚な扉へと近づいた。…さて、行くか…戦場に。 意を決して扉を開けようとしたところに、ジジッと機械音がした。 見ると、扉に俺の顔デザインのスピーカーが付いている。 しかも不吉なことに、スピーカ版の俺は笑顔を浮かべているのになぜかその頬に血のりが…! …やばい、今年は盛大って意味が分かった気がする…。俺マジで死ぬんじゃないの今日。 誕生日が命日とか絶対やなんだけど!!と頭をかかえていると、スピーカーがキィーンと音をたてた。 《――ジジッ――ようこそ…血塗られたボンゴリアンパーティーへ…ジッ――…》 ……マジで殺される―――――!! なにこれ地獄の番人?!スピーカーから聞こえてきた声は、そう思わずにはいられないほど不気味で恐ろしいものだった。しかも“血塗られた”ってなんだよ!これ誕生日パーティー(仮)でしょ?!と頭を抱える俺を確実にどっかに仕掛けたカメラで監視してるリボーンが、この洋館のどこか(しかもそこだけむちゃくちゃキレイに改装されてる)でにやにやしながらエスプレッソすすってる姿が目にうかぶ!! 「おいリボーン!見てるんだろ?!お前いくらなんでも人の生まれた日になんつーシュミの悪い…」 《ジジッ――…、ハッピバースデートゥゥウゥユウゥウウウ…ジジっ―――ハッピバースデトゥ…ウ》 急にハッピーバースデーとか歌いはじめた!と思ったら、スピーカーの様子がおかしい。…俺の顔(スピーカー)の笑顔が、なんかどんどん苦悶の表情に変わってきてるようにみえるんだけど気のせいだよな?でも自分の顔(スピーカーだけど)がこんな状況で意味深にも苦しみはじめたら、気になってしょうがない。俺はおそるおそるスピーカーに顔を近づけた。 《ウウウウ…ユウウゥウウ―――ジーッ、ジジジッ……ツナヨシクン、オタンジョウビオメデトウ!!》 え、なに…お祝いメッセージ?と安心したのもつかの間。 バンッ!とはじけるようにしてスピーカーが扉から外れて、俺の顔面にクリーンヒットした。 「ぅおい、っってぇええええええええ!!!!!」 《――ジーッ…――ハハハ、ピバーバーバースデデデットゥゥウゥユッウウウウ…ジジジジっ――》 「うるっせええええなにがハッピーバースデーだふざけんなァアアアアァ!!!!!!」 《……つ、綱吉くん?》 俺の顔面に強烈な捨て身のタックルをくらわせてきた俺の顔(スピーカー)は、その衝撃によって壊れたとばかり思ってガチ切れかましたらば、冷たい床に転がっていた俺の顔(何度も言うがスピーカー)から聞き間違えるはずもない天使よりかわいい俺のの声が聞こえてきた。…はは、やだなー、俺の俺のって文才ないの丸わかりな独白してたらちょっと混乱してきて幻聴きこえちゃったかな?それかあんな固い無機物にぶちあたられて頭おかしくなっちゃったとか…あはは……は、 「ちっ、ちがうんだよ!今のが俺の本性とかマフィア用の顔とかそういうんじゃないんだよぉおお!!誤解しないでお願いだからぁあああ!!うわあああ今日フラれたら俺は死んでやるぅうう!!!!」 とはさすがに口に出しては叫べなかったが、心の中では大いに絶叫した。マジふざけんなリボーン。今日は俺の誕生日だぞ?今日ってそのお祝い(一応)なんじゃないの?なのに今日俺フラれたらどう責任とってくれんの?が存在してる今が俺の人生の薔薇色時代なんだけど!ねえ!…ほんとマジどうしてくれんだよあんなその辺のチンピラみたいなキレ方して…だってきっと画面越しに俺のこの情けない姿みてるんじゃないの?……考えれば考えるほど、俺はもう(精神的な意味で)暗殺されかけてるんじゃないかと思えてきた。しかも身内に。しかも誕生日に。……いっそ死にたいから殺してくれ。と俺がまだ始まってすらいない俺の暗殺パーティーにますます気持ちが重くなっていると、またスピーカーから俺の天使のかわいい声が流れてきた。 《えっと、返事がないけどリボーンさん曰くスピーカーに故障はないようなので、洋館に入ってからのことを説明するね。お屋敷の中にはやじるしのプレートで道順が案内されてるから、それに従って進んでください。ゴールの4階にある大きなホールにたどり着くまでに、プレゼントを用意したボンゴレのみなさんが待機しているのでプレゼントを受け取ったら次に進んでください。ゴールまで無事にたどり着くことができれば、綱吉くんにはスペシャルなプレゼントが用意されているので頑張ってください。以上です》 ……ツッコミどころ満載だなオイ!ボンゴレ式に用意されたプレゼントなんかひとっつもいらないからとこのまま帰らせてくれよマジで…!だいたいゴールまで“無事に”たどり着くことができたらってなんだよ!リボーンの言う“無事”には危険がつきものだ。スペシャルなプレゼントっていうのもものすごくあやしい。…帰りたい。でもの、「頑張って」を聞いてのこのこと帰るわけにもいかない。こんな俺にだって、彼女にいいとこ見せたいっていう男の意地はあるしプライドだってある。…ふふふ、今年の俺は一味も二味もちがうぞリボーン!愛の力の可能性っていうのをお前に見せてやるからな……!! 「、俺、がんばるからね!」 《さ、ツナがやる気になったみてーだから、パーティーの始まりとするぞ》 「やっぱりどっかにカメラつけてんだなリボーン!!ってかお前マジで許さん!!」 《じゃ、開始のバースデー仕様のクラッカーを鳴らすぞ》 「…は?」 ちなみにジャンニーニ作のスペシャルなクラッカーだぞ、という声はもはや俺には聞こえていなかった。 ブァアアアアアアンッ!!!!!!!!!! 急に扉が開いたかと思うと、目の前には超特大のクラッカー…らしき筒。というかもはや大砲。それはその見た目にふさわしい何か爆発でもしたんじゃないかというほどにでかい破裂音を上げ、俺をふっ飛ばした。開始の合図の前に俺が死ぬかもしれないとか、お前もジャンニーニも考えなかったわけ…?とふっ飛ばされながらも冷静に考える俺。……かわいい恋人と迎える初の誕生日だっていうのに命に関わるような悪ふざけしやがって……!!俺はふっ飛ばされながらもスーツのポケットに入れていたグローブを取り出し、死ぬ気の炎を発動した。乗ってきた愛車に激突する寸前で踏みとどまった俺は、なぜか笑った。ふふふ、ここまでされたら俺も本気で勝ちに行くからなリボーン。ずかずかと洋館の扉に向かって歩き出す。 「何がなんでもこの洋館を攻略して、誰がなんと言おうとに祝ってもらう」 |
血塗られたボンゴリアンバースデー