年に一度の誕生日。 記憶にあるお祝いでいちばんまともで素直に喜べたのは、小学6年の時だ。それ以降はすべて、お祝いどころか苦行としか思えない名ばかりの誕生日パーティーが続いている。そして今年も例に漏れずにその苦行の主催者が、俺に地獄の1日の宣言をしにやってきた。 「ツナ、ありがたく思え。今年もお前のバースデーを盛大に祝ってやるぞ」 そんな恩着せがましい言い方される上にまったく素直に喜べないどころか恐怖心まで湧き上がってくるお祝い、俺はいりません。そもそもリボーンが俺の誕生日を素直に祝ってくれたことなんて一度だってない。こいつは人の苦しむさまを笑いながら傍観…するだけでなくその原因を作るのが大好きな人格破綻者だ。俺はこの約10年にも及ぶ長い付き合いでそのことを学んでいる。…俺の人生で大事な部分をほとんどこいつと過ごしてしまったと思うと、ほんと…やるせない…!けど、今年は違う! なぜなら今年の俺には、かわいい彼女がいるからだ!!(どーん!) 学生時代には彼女なんて一人もできず、マフィアになってしまった俺。けど、ボンゴレというブランドの名の下にボス就任後はいやというほどモテた。先に言っておくがこれはイヤミでもなんでもない。だって俺が女の子にきゃあきゃあ騒がれるのは俺の魅力なんかじゃなく、“ボンゴレのボス”という肩書きがあるからだ。そりゃあ最初こそ浮かれていたし、何人かお付き合いした子もいた。でも俺はそのことに気づいてから、ボンゴレブランドなんかまったく気にもしない(むしろ当時は何も知らなかったけど、知ったあとから今でも気にしちゃいない)京子ちゃんやハルという女の子の友達がいた学生時代よりもさみしい生活を送っていた。俺は、“ボンゴレのボス”じゃない“沢田綱吉”を見て好きになってくれる女の子のことを、おとぎ話のお姫様と同様にひたすら待っていた。でも、20代も半ばの男がシンデレラシンドロームなんて笑える話だが、俺はもう自分の肩書きで寄ってくる女の子の相手をする気にはなれなかったし、少女マンガみたいに「初めは“ボンゴレのボス”って肩書きに惹かれていたけど、今は違う。あの人が好き!」とかいうようなことが起こる確率は0だと悟っていた俺は、そもそも仕事で関わらざるをえない異性でさえ無関心を貫いた。けれど運命とは意外なもので――――俺の彼女は、うちの同盟ファリミーのご令嬢だ。 仕事で訪れた同盟ファミリーのお屋敷で、こちらは遊びにやってきていたというディーノさんに追いかけまわされている女の子と出会った。イタリアに本拠地を置くにはめずらしい日系ファミリーで、日本のことで話の合うボスとは仕事がしやすかったので俺はその頃よくお屋敷に通っていたけれど、そこで俺と歳の近いような女の子を見るのは初めてだった。彼女こそが俺の運命の恋人、だ。 「!いい加減にしないとオヤジさんにまた怒られちまうぞ!」 「そんなの別にいい!わたしはそもそもマフィアが嫌いなの!マフィアの令嬢のためのお稽古なんてもういや!わたしは絶対に誰とも分からないような、しかもマフィアのボスの奥さんになんてならない!!」 「別にマフィアの嫁になんなくたって、花嫁修業しといて損はねーだろ?!あっ、コラ待て!!」 当時マフィアの令嬢として、将来どこかのボスのところへ嫁ぐために“マフィアの妻となるため”の花嫁修業をさせられていた。好きでマフィアの家系に生まれたわけじゃないのに、どうして顔も知らないマフィアのボスと結婚しなくちゃいけないの?しかもそのためによく分かんない花嫁修業を強要するなんてどうかしてる!と怒鳴りながら、追いかけてくるディーノさんを翻弄するその姿に俺は感心した。マフィアになんて死んでもならない―――そう言っていた昔の自分を思い出したのだ。そして、もし俺も彼女のように突っぱねることができていたなら、今とは違っていただろうと少しもの悲しくなった。俺は結果的にはボンゴレのボスになったことを後悔していないけれど、やっぱりどこかで普通の暮らしというものが恋しかった。だからせめて、彼女は普通の暮らしができればいい―――……と思っていたはずなんだけど、そのあと階段から落っこちて気絶したディーノさんを俺と彼女が看病して、意気投合。なんやかんやでお互いの気持ちに気づいて今に至るわけで……少なくとも俺と付き合っている以上、彼女に普通の暮らしはやってこない。 と、前置きがずいぶん長くなってしまったけど、そんなこんなで俺には今かわいいかわいい彼女がいるわけだ!しかも付き合って初めての俺の誕生日である。は照れたようにはにかんで、絶対に忘れられないお祝いにしようね、なんて言って俺の頬にキスをくれた。…そう、今ドキの若者言葉を使わせてもらうと今年こそは「リア充爆発しろ!」と人に言われる素敵な誕生日を過ごせることが確約されている!なのに、悪魔みたいなリボーンに負けて苦行に参加させられたらたまったもんじゃない。ここは断固拒否する! 「リボーン、気持ちは嬉しい(くない)けど、今年はとふたりで過ごすから」 「ああ、そのことならから聞いてるぜ」 「ほ、ほんとに!?そ、そうなんだよ!今年はがいるんだ!だから、」 「だが心配しなくていいぞ」 「……へ?(い、いやな予感が…)」 「にはオレから断っておいてやったぞ」 「はああああ?!」 お前なんてことしてくれたんだよ!が!があんなふうに笑って俺の誕生日を祝ってくれるって言ったんだぞ?!それに一度決めたことや約束したことは絶対に守るのことだ、リボーンに祝うなと言われたくらいで簡単に引き下がるわけがない。…さてはまたお前ひどいウソ言ったんだろ!!……今日という今日は絶対に許さないからなリボーン!!と怒り狂う俺を、リボーンはフンと一蹴する。そしてニヤリといかにも悪人ですという顔をして、言った。それは俺にとって死刑宣告のようなものだった。 「『毎年ツナの誕生日には、ボンゴレ中枢を担うメンツで“ボンゴリアンパーティー”という盛大なパーティーが執り行われる。それがこのボンゴレファミリーでのルールだ。だが今年のパーティーは一味、いや二味は違うな。なんてったって、お前がいる。お前も今や立派なツナの彼女だ。ぜひ、この伝統的なパーティーをお前も手伝ってくれ』…と俺が言ったら、さすが格式高い名門の生まれだな。形式美ってのをよく理解してる。……つまり簡単にオーケーしてくれたってことだぞ。よかったな、ツナ。今年はお前にも彼女がいることだし、例年より盛大に祝ってやるために今この瞬間にも着々と準備は進んでいる。あ、当日までには会うなよ。アイツにも色々と頼んでるから忙しーんだ。ただ祝われるだけのお前と違ってな。とにもかくにもお前は死ぬ気で楽しみにしておけ、バースデーだからな。……ボンゴレ式の」 そして俺は誕生日当日、地獄をみることになる。 |
血塗られたボンゴリアンバースデー