日に焼けることを知らない、そんなような真っ白い手を取って、その甲に唇を押しつける。

は驚きに目を丸くすると数秒、ふっと笑顔を零した。




「なぁに、らしくない」
「ん、なんとなく。昨日の会合でさ、ツナが招待客の女性にしてるの見て」
「それで?武もしたの、キス」
「しねーよ。お前今言ったろ?らしくねーじゃん」




今朝方まで続いた、ボンゴレ主催の大規模な会合。
あちこちに振りまいた愛想笑いと、表面ばかりの親切のおかげか、身体は程よい具合に疲れている。
今にも、やさしく甘い眠りの世界へ旅立ちそうなくらいには。

大きなあくびを噛み殺して、の膝へ頭を預ける。
すると彼女はおかしそうに肩を震わせながら、俺の髪を指先で梳きはじめた。
まるで溶けるように、ゆらゆらしながら視界を狭めていく。
瞼が、じわりじわり、少しずつ落ちてきた。

しかし、まだ眠りたくはない。

身体は休息絶賛要求中だが、ぼんやりとした視界でもの姿を捉えているうちは、まだ眠りたくはなかった。




「……、ツナもなぁ……、変わっちまったなぁ……」




別に、特にそうは思っていなかったが、この際なんだってよかった。
けれど彼女の方はそうでもなかったらしく、すぐさま返事が降ってきた。


「そう?何も変わらないわ。今も昔も、あの人、変わらずいい人よ。心根の優しい」


ぶらんと垂れ下がっていた左手を、目の上にどんと乗せる。
それから、彼女の様子を少しだけ窺って、片目分腕をずらし、ぱっちり目を開けた。

眠気は、もうどこかへ去ってしまった。早足に。

じっと見上げる先の彼女の目は、いつもと変わらず、優しい色で俺を映している。




「………べた褒めだな。俺は獄寺と違うからな、ふつーに嫉妬するぜ?」




彼女の優しい目に映る俺は、黒い影のようだけれど、不機嫌そうな表情ははっきり分かる。
ほんの数秒、彼女はきょとんと首を傾げてみせると、それから、あぁ、と納得した風に微笑んだ。


「ふふ、貴方だって変わらず素敵よ。……でも、少しだけ大人になった」
「そうかぁ?……そうかねぇ、」


よくよく考えてみれば、ただ無邪気に笑っていた少年時代はもう遠く、十年の月日が経っていた。
変わって当然、変わらないものの方が、少ない。


そう、たとえば、


「嫉妬心にかられて、すぐ押し倒そうとしないところとか」
「、そういう意味かよ」


眉間にしわを刻むと、彼女は小さく笑って、俺の額にキスを落とした。
そこからじわりと侵食を始める熱は、俺の頭を沸騰させ、心を揺さぶる。
こちらへ倒された身体が戻らないうち、俺は細い肩を引き寄せ、唇を奪った。

あの頃より、少しは理性的になったと言いたかったんだろうな、お前は。

けど、全然分かってないよ、


舌と舌が、唾液と唾液が、合わさって、絡み合っていく。
熱いだけの俺の溜息と、甘い彼女の吐息が、お互いの熟れた口内を行き来する。


あの頃は、ただ手を握るだけでも、死ぬほど緊張して手が震えた。


嫌がられはしないかとどきどきしながらも、唇を押しつけた。


永遠なんてないと思ってたくせして、ずっと一緒にいたい、ずっと一緒にいられる。




俺はそんな風に考えていて、




「ん、っは、ぁ、」
「――――、なんだろうな、」
「、え?――――っん、ちょ、たけし、ぅん、っ、は、あ、」




今は、手を握るだけで、なんかもう満たされたような気がする。
だからといって、キスをしないでいることは出来ないし、もちろん押し倒しもする。
まぁ、若い頃より余裕がある分、雰囲気やらの機嫌も読めるし、何もかもスマートだろう。


永遠はない、だから先が見えない「ずっと」もない。


けど、二人でいられない世界なんて、がいない世界なんて、想像すら出来ない。




「―――――っは、あ……っ、……きゅうに、どうしたの?」
「いやさ、俺もなんも変わってねーなぁと思って」
「……は?え、あ、怒ってるの、あなた、」
「は?え、あ、いや、怒ってねーよ?ん?いや、怒ってる?」
「ええ、なぁに、どっちよ、」

「……わかんね。な、このまま寝てもいーか」

「それはだめ。風邪ひくわ。ベッドで寝てちょうだい」
「ええ、ひざ枕きもちーのになぁ……」
「いつでもしてあげるから」




そう言ってお前、いつもしてくんねーじゃんかよ。




「……もなぁ、変わんねーよなぁ……」
「ええ、今度は私?……もう、寝ぼけてるんでしょう」
「いやマジで、おまえ、あのころと、」
「はいはい、続きは明日ね。ほら、ベッドまで歩いて」
「んー、」




そういえば、この甘い匂いも、俺をたしなめる優しい声も、ずっと変わらねーなぁ……。