根 っからの甘党のくせに、無理してブラックコーヒーなんて飲んだ。午前三時。一向に眠れる気配がない。目を閉じる。開く。目を閉じる、開く。何度も繰り返して、もう眠ることそのものを諦めた。そして、真っ暗闇の中、隣で小さく寝息を立てる可愛い人に視線をやって、考える。自分の選んだ道は、果たして正しかったのだろうか。自分の選択はいつだって誰もが認めてきてくれたけれど、時々不安に思う。例えば、もう朝が近いこんな夜に。ボンゴレ十代目である自分の選択は、それが全ての意思であり、全ての答えだと今まで言われてきた。そんな大それたこと、あるはずがないのに。けれど、自分以外の人は皆そうだと言う。彼女も。俺の言うことは、何がどうあっても正しいらしいのだ。俺が黒を白と言えばそれは黒であっても白だし、赤ん坊は空から降ってくるものだと言えば、赤ん坊は母体を必要とせず神様か何かがおっことしてくれるということになるのだ。そんなわけないだろうに。 黒 はどうしたって黒だし、赤ん坊はやっぱり母の身体に宿って生まれてくるのだ。俺がこうだと言ったって、全てがそうなわけがない。なのに。俺をそうやって全知全能、神懸かった能力者みたく扱う人達は、一体俺に何を求めているんだろうか。この子も、俺に何をして欲しいんだろうか。俺は黒いものを白いものに変えることは勿論、子供を空から生み落とすことなんて出来はしない。そういうのは正真正銘、神様に願うことであって、少なくとも只の人間の俺に求めたって、奇跡以上の奇跡が起きなければ、たとえ起きたとしても叶えてやれないと思う。だって黒いものはどうしたって黒いものだし、赤ん坊は母体に宿って生まれてくるものだと一番最初に決められたからだ。ルールというのは、一度決めたら普通は変えられない。一度でも変えることが出来たら、それはルールではないからだ。変えてしまっても差し支えないようなことは、ルールにはならない。俺はどうして、この名前の下に集う人達の神様になってしまったんだろう。 俺 は、隣で眠る人の我儘を叶えてあげられる男になれれば、それでよかったのに。いつからか、この人でさえ俺を神様扱いするようになった。俺は小説や映画に登場する能力者ではないし、この世界のルールを造った神様でもないのに。同じ毛布にくるまって眠るこの時、君が夢を見ている間だけは、同じ場所で同じものを見ている気がする。もう、夜の気配は遠い。まだ君が目覚めるには早すぎるけれど、直(じき)に。出来ることなら、もう一度選択を迫られたあの日に戻りたい。そうしたら、こんな風に後ろめたい気持ちをせず、ただ君を愛せたろうに。けれど、戻ったとして、俺は只の男でいられる自分を選べない。そうするには、もう遅いのだ。あまりに多くを知りすぎた。虚像の神を信じ、それに縋る人々を世界に置き去りに出来ない。自分に願いを寄せる人々を、薄情に捨てることなんて。目の奥がずくずく重く痛む。ぎゅっと強く瞼を合わせて数秒、ゆっくり開く。絡む、足先。冷え症だから、冬場はこうして俺に甘えて眠る。温かな夢の無意識の内、いつの間にか冷えた爪先を俺の足にくっつけてくるのだ。眠りが俺の視界と意識を覆うまで、その爪先にじゃれて遊ぶ。遊ぶ。朝がきて、冬特有の冷たい空気が君を揺り起こしたら、爪先の甘い熱はさっと離れてしまうから。 |