だいすきなのに、こんなに、いっぱい、すごく、だいすきなのに。 ゆきのばか、なんであたしの気持ちわかってくれないの。涙で声を震わせ、細っこい身体をしゃくり上げて揺らす様子を見て、旦那はすっかり困った顔をしている。ちゃんが目をこすれば眉毛をキュッと寄せ、何か言いたそうに口をうすく開くくせして言葉には出来ない。そしてどうすればいいとハッキリ書かれた顔をして、オレを睨むように鋭く見つめる。……その目が人様にお願いする目ですかねぇ、旦那ぁ。はあ、と溜息を吐くと、旦那でなくちゃんの肩が、びくりと跳ねた。そして声を上げて、ちいさなこどもみたいに泣く。大泣きする。一生懸命に紡がれる言葉はどれも嗚咽と混じり合って、何を言ってるのかオレにはサッパリだ。旦那じゃないが、眉をキュッと寄せる。しかし、さっきまでそう小難しい顔でおっかねぇ目をしてた旦那は、今は幸福で満たされていると言わんばかりの優しげな微笑みを浮かべている。ちゃんを見つめる眼差しは、ひどく柔らかい。ちゃんの呪文みたいな言葉は、どれも旦那への確かな愛情が込められているということを、この人はよーく知っている。彼女が泣くのは、いつだって旦那が原因で、旦那のためだ。旦那だって、分かってるくせに。ちゃんをそんな風に見つめるんなら、かわいい嫉妬心を優しくなだめてやれっての。あーあ、オレさまってほーんと損な役回り! 「ちゃん、ほら、泣いてたらカワイイ顔が台無しだぜ?旦那も、目ェ擦ったら赤くなっちゃうから、ちゃんと止めてあげなさい!」 「っ、ひ、うぅ、っく、しゃすけぇええぅえ、ぐ、ふえ、」 「、う、っ、……っ、な、なくなでござるっ、」 「しゃすけぇえぅああああん!!」 「さっさすけぇ!よっ余計に泣いたぞぉおおぉ!!」 ったくめんどくさいカップルだなぁ!俺様は慈善活動して回ってるキューピッドじゃないんだけど分かってる?しかしそう言ってみたところで、ちゃんは泣くのに忙しくて聞こえてないし、旦那は旦那でそんな彼女にどうしてやればいいのか見当もつかないから、行き場なさそうに視線をあちこち動かすばっかりで、そりゃもう読んで字の如く俺様なんて「眼中にない」し。あー、ほんっとめんどくさい、しかも俺様報われない。なんだって他人のためにこんな頑張んなくちゃなんないんだか、当人達よりぜんぜん俺様のが尽くしてるってーの。……ま、いーけどさ、べつに。なんだかんだいって二人の世話焼くのきらいじゃないし?旦那のぐずぐず加減なんかもーほっとけない!おれさまがいなくっちゃほんと、だめなんだから。ちゃんのこと泣かすことは出来ても、旦那は慰めることできないもんね。おれさまが、……おれが、やってやらなくちゃ。 |