指先が絡むと、彼女はそっと頬を染めた。 かわいいひとだ。 おれはとっても気分が良くなって、俯く彼女の様子をじっと見つめ始める。 睫毛が、長い。白い肌がうっすら赤くなって、瞳がちょっとだけ潤んでる。 今時珍しいくらいに純情な彼女に、おれはもう心をそっくり持ってかれた気になった。 しかし、あのぅ、という気まずそうなか細い声が、あれこれ混沌とした妄想が飛び交うお世辞にも純情とは言えない思考世界から、おれを連れ戻す。 何かな、と笑って見せると、彼女は桜色の頬のまま、 「わたし、あなたのことっ全然しらないしっ、」 とっても上品な装いで、甘いはちみつ色の髪を揺らしながら、その人はわたしの手を取り、甲にキスをした。 溜息しか出ないような素敵なひとが、膝をついて、わたしの手の甲にキス! あぁ、とここでこそ溜息を吐くはずが、わたしはその場に座り込んでしまった。 だってこれはドラマでもおとぎ話でもない現実なんだもの。 全然知らない人から、路上で突然膝まづかれてキスなんかされたら、誰だってびっくりするでしょう! 「これから知っていけばいい。俺、車から君を見つけたのは運命だと思うんだ。だから、ね?」 むちゃくちゃ言ってるのは、もちろん自分で分かってる。 おれも一応いい大人だし。 けれど、誰が言ったか恋愛は理屈じゃない、まさにその通りなのだ。 商談帰りの車の中、退屈紛れに窓の外へ目をやった時、君がいた。 これは世の中にある何万何百の出会いから考えて、どれくらいの確率だろうか。 信号が赤から青に変わるまでのほんの少しの時間で、君の姿が網膜に焼き付いてしまったように、 目の奥では何かきらきらしたものが、ただひたすら君を彩る。 恋をしたと、おれは君をぼぅっと見つめながら、確固たる理由はなしに、けれど当たり前にそうだと思った。 だからって、急に車から飛び出して、君の元へ走り寄って驚かせたのは悪いと思っている。 けれど、そうでもしなきゃこの運命の出会いを、おれはみすみす逃がしてしまっていた。 「…でも、わたし、…あなたとは」 「綱吉。おれの名前、沢田綱吉」 「…、さわださ「綱吉」 「、つなよし、さん、とはお付き合いできません、わたし、」 「…、おれが年上だから?」 お洒落なカフェテリアにて落ち着いて話をすることになって、初めはなんとも甘い笑顔を浮かべていたのだけど、今はただただしゅんとしてしまっている。 さわだ、さんは、とっ ても素敵だと思うし、優しくていい人なんだろうとも思う。 でも、さわださんが言ったように、見るからに彼の方が年上だし、こんなに綺麗なひとがわざわざその辺の高校生なんかを好きだと言う理由が、分からない。 わたしなんかに、一目惚れしたという理由が。 「君が考えてること、分かるよ。確かに、一目惚れなんて言われて、そうは信じられないよね」 「っ、」 「でもね、一目惚れっていうのは、理由なんてなくて、敢えて無理に理由みたいなものをくっつけるなら、」 それはやっぱり、俺が君に運命を感じてる。 君も少なくとも何かを俺に感じてる。 だからこうして、今向かい合ってる。 「そうでしょう?」 これはドラマでもおとぎ話でもない、現実。 だからこそ、こんなことってありえるのかもしれない。 だってそうじゃなきゃ、ここで差し出された手を取ってしまうなんて、ありえないもの。 |