困った。いや、困ってはいない。ただちょっと、いやだいぶ、心の準備ってやつが出来てないだけだ。 でももう約束の時間になる。待たせるなんて論外だぞプロポーズとかそれ以前の問題だから! そう、プロポーズ! 色々考えてはみたけど、やっぱりシンプルなのが一番心に響くだろ! というわけで、「結婚してくれ」そう言うことに決めたわけだけど。 もちろん、渡す指輪だって完璧だ、用意してある。 それもオーダーメイドのとびっきり綺麗なの。 サイズだって事前にクロームにリサーチしてもらったんだ、間違いない。 そしてプロポーズ当日、ぶっちゃけ俺の誕生日でもある。 相手の誕生日ならロマンチックかもしれないけど…、自分の誕生日ってどうなんだろう? そう思って日を改めようかと考えたが、相手の誕生日にプロポーズする方が押しつけがましい。 とリボーンに言われたので、今日でいいってことにしておく。 ……もし断られたら、どうしようかな。 断るわけない!なんて100パーセントの自信があるわけじゃない。当たり前だ。 だって俺マフィアのドンだし、……俺が親だったらさ、正直マフィアは遠慮したい。 優しい彼女のことだから、結婚なんてお互いだけで済む話じゃない以上、まず家族のことを考えると思う。 そうなったら、俺に勝算なんてありはしない。かと言って、そう簡単に振られるつもりもないけど。 だってそうじゃなきゃ、プロポーズなんてしようと思わないだろ、ふつー。 「10代目、」 「っ!あ、あぁ、獄寺君、」 神妙な顔つきで部屋に入ってきた獄寺君は、一礼して言った。 「さんがいらっしゃいました」 「ええ?!もっ、もう!?はっ、早くない?!」 慌てる俺に一応念のため、という風に獄寺君は自分の腕時計を確認した。 それで時間が巻き戻るなんてこと、あるわけないけど。 「いえ、時間通りッス」 「(ほらね、やっぱり)……ま、…まじで」 「お通しして大丈夫ッスか?」 心配そうな獄寺君に、うん、いいよと短く返事をする。 そうだ、覚悟はもう決めただろ?……ものすごく緊張してるってだけで。(そこが一番重要なんだけど) 「綱吉?入るよ?」 それからすぐ、扉の外から彼女の声がした。 じゃあ俺はこれで、と獄寺君の声だけが遠ざかっていった。 緊張で喉が渇ききってしまって声を出せないでいると、心配そうな声がもう一度俺を呼ぶ。 「綱吉?…いるんでしょ?」 「っ、う、うんっ、はい、ど、どうぞ!」 「?入るよ?…失礼しまぁす」 空色のマーメイドドレスを身にまとった俺のお姫様が、俺の方へさっと近づいてきて、挨拶にキスをする。 やめてくれ、いや、うれしいんだけどさ、今だけはどうか勘弁してくれよ。 カッコ悪いくらいに早い心臓の音、お前には聞かれたくないんだよ。 「お誕生日おめでとう」 「あ、あぁっ、ありがとう、うれしいよ、」 「今夜のパーティー、お客様がたくさん来るって聞いたわ。業界の偉い人がたくさん」 「あー、あぁ、そうだね、うん。ヴァリアーとか、ディーノさんとか、」 「……どうしたの?なんだか落ち着かないみたい」 「へっ?いやっ、まさかっ、そんなわけないだろ!」 へんなの。そう言いはしたものの、別段真剣な様子ではなかったのでそっと息をつく。 プロポーズくらいカッコよくキメれなくてどうすんの、俺。 マフィアのボスとしてカッコつかないのはもう半ば諦めてるけど、男としてはそうじゃない。 せめて彼女の前では、イイ男の振りでもいいからしていたい。 「プレゼントはパーティーの時に渡すね。…それと、ぜんぶおわったあとに…、」 俺の首に腕を回して、耳元で甘く囁いてくる。 どうしよう、今から期待しちゃうんだけど。 ……これで振られたら、俺もう立ち直れないかもしれない。 「……その前にさ、俺に話しておきたいことがあるんだ」 「へ?なぁに?…あ、ドレス変えろっていうのはやぁよ」 「そんなこと言わないよ。……ちょっと待った、後ろ向いて。…あぁっ! またこんな背中開いてるの着て…ってそういうんじゃないんだよ! いやっ、ドレスのことはひとまず後だ!……真面目な話なんだよ、」 吐き出した息は、どうしようもなく震えていた。 それに気づいてか、は真面目な顔をして俺から離れた。 「…なに?」 「……今日、俺の誕生日だろ」 「知ってるよ、だからお祝いに来たんでしょ」 「特別な日だよね?」 「もちろん!」 「その特別な日に、に頼みたいこと、あるんだ」 「…まさか仕事じゃないよね?やだよ、彼氏の誕生日に情報集めなんか」 「違うよ、ちゃんと最後まで聞けって」 じゃあなんなの?といくらかふてくされた様子で言ったの唇を、そっとキスで塞ぐ。 びくりと一瞬身体が強張ったのが伝わってきたけれど、それは本当に一瞬で、すぐ俺に身体を預けてきた。 触れるだけの優しいキスを何度か繰り返したあと、俺は深呼吸をして、の両肩にそっと掴んだ。 「俺…、のこと、本当に大事だ。愛してる。 だから…、俺と、…俺とけっきょんしてくれ!」 ……………ちょっと待った今のナシ!! 「っ、いやっ、そのっ、待った、もっかいちゃんと言うから!」 「ふっ、もう、綱吉のばーか」 「だっだから〜っ!」 最悪だ、恐れてたことが! かっこよくキメるどころか、肝心な言葉一つまともに伝えられないとか…。 俺生きてる価値あんの?誕生日とか迎える必要なくない? 「いいよ」 落ち込む俺に満面の笑みを浮かばせたのは、のそのたった一言。 ロマンチックでもなんでもない、飾り気ないシンプルな返事。 「綱吉みたいなおっちょこちょい、放っておけないからね」 その理由ってちょっとどうなの。 でもなんだっていいよ、お前が、俺のお嫁さんになってくれるなら! これで本当に、お前は俺だけのお姫様になる。 その夜の誕生日パーティーは、俺のプロポーズの成功(と言っていいんだろうか)を聞きつけたリボーンによって、 いつの間にやら婚約パーティーにすり替わっていた。 |