「ね、」


綱吉の声に振り返ると、くいくいと手招きしている。
落ち込んだ私をよく分かっている。
素直に近付いていくと、「よしよし」と優しく頭を撫でてくれる。
私の仕事のミスは私のせいなのに。わたし、甘えてる。
でも綱吉の優しさは心地良くて、ついつい寄り添いたくなってしまう。


……人のせいにしてる。
自分のよわさ。


綱吉は絶対、どうしたの、なんて言わない。私が話すまで、じっと待っていてくれる。
どんなに時間がかかっても、おまえのペースでいいよ、なんて優しく笑って。
やっぱり、綱吉にぜんぶ押しつけて、それで、あまえてる。
それでも、笑ってくれるけど。


「……、あの、ね、」
「うん」
「あの…、」


口を開いてはとじる私に、綱吉は柔らかく微笑む。


「ゆっくりでいいよ。話したくないことは話さなくていい」
「…、うん、」


それからぽつぽつ落ち込んでる理由を話し始めた。よくあることだ。きっと私だけじゃない。
上司が自分のストレスの捌け口に、私に嫌味を浴びせて執拗にこき使ってきた、それだけのこと。


でも、一生懸命やってるのに、頑張ってるのに。


私は悔しくて悔しくて仕方なくて、真夜中だというのに綱吉のところへ押しかけた。
綱吉だって疲れてるだろうに、時折相槌を打つだけで、ただ静かに私の愚痴を聞いてくれた。
全て話し終えるころには、すっかり気分が落ち着いて清々しいくらいだった。


「よかった」


綱吉が淹れてくれた温かい紅茶を一口飲んで、私は「え?」と聞き返す。


すると綱吉は私の髪を一房すくって、そこに唇を落とした。
そして、目をそおっと細めて私を見つめてくる。
頬に熱が集中するのが、よく分かった。あんまり優しいめで、みないでよ。


「元気になってよかった。俺は頑張ってるが好きだし、応援してあげたいよ。
でも、無理はしないようにね!…たまには、愚痴ったっていいんだ。
相手にくらいならなれるよ。ね?だから、あんまりためないで」


「…うんっ!」


優しい腕に甘えて、お礼だというように頬にキスをした。


「ね、」「よしよし」