目が言うのだ。

いい加減に認めてしまえと。
そうしたら楽になる、もう意地を張るのはよしなよ。


お前には俺しかいない。そうだろ?


目が、そう言っているのだ。既に。


どこかでそれをぼんやり受け入れている私に気づいてるくせに、言外に私を追い詰める。
分かってるくせに、だ。私がもう、にげられないこと。
もうとっくに、捕まってしまっていること。


それなのに、ほらまた。甘いひとみが私を捕らえて、言う。




なぁ、お前さ、俺のこと。




「……くやしい、」


私がそう呟くと、彼はふと笑って短く答えた。


「何が」


それさえ分かっている。だから、唇が意地悪い弧を描いているのだ。
悔しい、だから悔しいのよ。そういう余裕な態度とか、ぜんぶ。
少し距離を取って、反対側へ顔を逸らしてやる。私ができる精一杯の抵抗だ。
この人は、私のことをみーんな分かってる。まだ隠しておきたい気持ちまで。

もう少し引っ張りたい女心も。
まだ認めたくない、生意気な恋心も。
厭きられて、放してほしくない、一途さも。


今はまだ、隠しておきたい私のぜんぶ。
そういうものを既に、全て把握している。

その状態で私に認めろとプレッシャーをかけてくるのは、ずるいんじゃないだろうか。
ぜんぶ、見透かされてしまっている。


探られるのは嫌だ。自分のこと全てが知られてしまってるなんて冗談じゃない。
それがたとえ、好いたこの人相手でも。いや、心を攫っていった人だからこそ、かもしれない。
でも、不思議とそれでもいいと思う気持ちが、どこかにある。
そこが、恐らくは彼をぼんやり受け入れている個所なんだろうが。


探られてる気が全くしないのは、彼の意地悪な瞳の奥に隠れた優しさのせいだ。


でも、探られることが嫌だと思うなら。
なら、より深く知られるのは?


こんなこと考える時点で私は、もうとっくに負けている。


、こっち見ろよ」

そう言う彼の声は、笑っている。
どんな顔をしているか、想像がつく。


「……やだ」


短く答えると、彼は速答だ。


「なんで?」


「やだったらやだ」
「……いいから、こっち見ろ」


ち、と舌打ちが一つ聞こえると、さすがにむっときて、なんで指図されなくちゃならないのよ!
そう言ってやろうと勢いよく振り返ってやった。すると、「それでいい」と彼が笑う。
これだもの、意地を張ってみたところでなんの意味もない。第一、どきりとしてしまった。

きゅんと心臓が甘く締めつけられたかと思うと、彼は私の後頭部を引き寄せ、熱っぽく唇を押しつけてきた。

重なる唇が、あつい。
火がついたみたいに、身体があつい。


蜂蜜色の甘い瞳が私を捕まえて、放さない。
声さえ出せずに、私はぼぅっと彼のひとみをじっと見つめる。


「ゆってみ、」


私の唇の端にキスをして、低い声で甘く囁いた。

「…え、」
「いい加減認めろよ」
「…、な、にを、」


とぼけてみたって、意味なんてないのにね。


「俺のこと、認めろ」


じっと私を見つめる目は、もう笑っていない。言い淀む私を見て、彼はまた甘く唇を奪う。
熱い唇が、舌が、私をいい様に翻弄する。時折漏れる震えた吐息に、私はうっすらめをあける。
すると、ちょうど目をすっと細めた彼と、視線がかち合った。


あぁ、もう、だめ。


「、んっ、ふ、あ…、」
「…まだ、物足りない?」


ふっ、と笑って言う自信たっぷりの態度は、受け入れがたいけど。
これ以上意地を張れるほど、私はこの人に距離を取っていないのだ。
それに、全て見透かされてるというなら、もうそろそろいい頃なんじゃ?




潮時、ってやつかもね。




だって今、私すごくドキドキしてる。




「俺のこと、好きなんでしょ?」




「…好き、」


そう答える以外に、何があった?


それに、よくできました、なんて笑うんだもの。
こんなに私を分かり切った人相手に、どれだけ嘘が吐けるだろう。




ねぇ、私こんなに、すきよ、あなたのこと。


俺のこと、好きなんでしょ?