とうとう、オレは名前さえ満足に呼べなかった。 だってオレがあの人をすきだと想う頃には、あの人にはとっくに想い人がいたのだ。 そしてその想い人も、あの人のことを特別におもっていた。 オレと違って、いつも堂々としている、つよいおとこ。 オレなんかでは張り合えるわけもないし、そもそも、あの人の幸せを壊そうなんて思いもしなかった。 その陰には、オレの臆病な心がしっかりいるのだけれど、せめて格好をつけさせてほしい。 甘酸っぱい初恋の記憶は遠く、俺はもうすっかり大人になってしまったのだから。 あの頃、一丁前にも小さく嫉妬さえする程に憧れていた、つよいおとこ。 今ならば、唇を噛んで見つめていたあの遠い背中が、少し近くに感じる気がする。 こんなことを言ったら、負け惜しみと言われてしまうかもしれないけれど。 目の前にどんと立ち塞がる、見るからに重そうなこの扉が開いたら最後。 俺は、この世界で最も強い男という称号を、手に入れる。 せんぱい、俺は、 「大丈夫。いつも通りの沢田くんでいいんだよ。10代目は、あなたしかいない」 「、さん……、はいっ!」 「……時間だ。扉を開けるよ、沢田綱吉」 扉が開かれ、眩しいスポットを浴びる直前、脳裏であの頃のオレとあなたが、無邪気に笑っていた。 |