もし許されるなら、あなたを俺の恋人だと、大声で叫びたい!


男として、女を好きになることの何が、果たして罪と呼ばれなければならないのだろうか。
唯一だと決めた女に、恋しいと想われたいと願うことの何が、恥ずべきことなのだろうか。

人として、同じ人を慈しみ、愛おしいと想うことの何が、何が、いけないというのだろう。

、俺がただひとり、愛したひと。
不甲斐ない俺を、どうか許してほしい。


沢田綱吉は、淡く光る濡れた月を見上げた。濃紺の夜空に、見事な満月。
なんて綺麗だろうと思うのも本当だが、やはり、悲しみは心を放してくれない。
今にも、暗い夜に飲み込まれてしまいそうな、儚い満月。あのひとのようだ、と思う。

さん、まだ起きていますか」

「……眠れないの?」
「触れられる距離にあなたがいるのに、眠ってなど、」

青白い月光を、ぬばたまの美しい髪に映している女、は、綱吉の言葉には何も言わなかった。
ただ、そっと口元を緩めて、微笑むだけ。それを見て、綱吉の心は更にきつく、悲しみに抱き締められる。
ほんの短い、それこそ刹那の逢瀬であるからこそ、出来れば笑顔だけを見ていたいのに。

網膜に焼き付けて、このひとの姿だけを見つめていられたら。そうとさえ願う。
しかし、何が彼女にこんなにも切ない憂い顔をさせているのか、綱吉はよく承知していた。
だからこそ、綱吉は何も言えない。この世で最も尊い存在を苦しめているのは、他でもない。

「……空が白んでくる前に、お屋敷に帰らなければ」
「、ええ、分かって、分かっています、」
「それなら、もう行って。……だめ、いけないわ、」

後ろからそっと、しかしきつく自分を抱く力強い腕を振り払うことなど、には到底出来なかった。
一重に、彼女も綱吉のことを、愛しているからだ。髪の一本から、その魂ごと全てを。
言葉で綱吉の行動を咎めることが出来ても、身体は心に正直で、じっと、されるがまま。
お互いが、己の想いをよく理解している。同じ気持ちでいるからこそ、こんなにも苦しくて、たまらない。
それ程までに愛し合っているふたり。けれど、その関係は決して祝福されるものではない。
初めて会った時から、この女(男)こそが運命の人(ひと)であると、ひと目で繋がったのに。

どうして、互いの想いが許されぬ時代に、生まれおちてしまったのだろう!