「あいしてる」




この人の愛ほど、信用出来ないものはない。あいしてるなんて、よくもそんなことが言える。神聖な言葉を、簡単に嘘に利用して、なんとも軽く扱う。私もいい大人だから、愛に対して理想やら夢を持っているわけでもないけれど、それでも、この男の口から愛という言葉を聞くと、どうにもむかむかする。かたちのないもののことを、あれやこれやと言うのは好かないけれど、この男ほど愛を語るに相応しくない人間はいないと思うからだ。沢田綱吉。とんでもない詐欺師だ。おまえの誓う愛なんぞに、価値があってたまるか!愛なんて知らないくせに愛を語る、不届き者。ふしだらな浮気者めが。


「綱吉の愛ほど薄っぺらいものってない」

「ひどいなぁ、薄っぺらいなんて」

「そんなこと思ってもないくせにね」

「そっちこそ。やきもちだろ?素直に言えよ」


まったく、話にならない。なんでも自分の都合のいいように話をかえて、へらへらへらへら。何がそんなにおもしろいのか。傍目から見たって、なんて軽薄そうな男だろうと思うに決まってる。私だって、現にそう思っていた。じゃあなんでそんな男の愛人になんてなってしまったのか。それこそ、話にならない。簡単だ。私は、世間一般で言われるような愛情の「あ」の字さえ知らないような男を。風に舞う枯葉よりも軽い軟派で浮気な男を、あいしてしまったのだ。この男に、おまえがいちばんだよ、おまえだけがほしいよ、そう言わせたくてたまらなくなって、同じベッドでただ眠るのではない、むしろ朝まで眠らない関係になってしまった。ふしだらなのは、私の方か。けれど、この男にどうにかして、愛とは、あんたが私に抱いてるそれがそうなのよ、とまで言えるくらいに、愛してもらいたかった。いや、おそらくは今も、私はそう願っているに違いない。愛に対して理想も夢もないと言いながら、私は乙女チックな妄想をしっかり現実にしたいと思っているのだ。


、こっち向けよ」

「いやよ」

「どうして?こんなに、あいしてるのに」

「うそつき。私じゃない女にも、同じこと言ってるでしょう」

「それはもちろん。あいっていうのは、平等だから」

「……ちがうわ。そんなの、ちがう」

「なんでもいいよ、今はお前が欲しい」


そうやっていつも誤魔化して、私の中のさみしさを、どうにもならない恋情へ変えていく。この男が、それに気づいているいないは別にして、ただただ悔しい。こうやって私ばかりが愛情を募らせていって、この男は気まぐれに、その時その時でころころあいする対象をとっかえひっかえ。いつか言わせてやる。、お前がいちばん大事な女だ。俺が愛してるのはお前だけだよ。そう、必ず。それくらいの心意気がなければ、こんな浮気者の恋人なんてやっていられないのだ。愛人なんて代えのきくポジションならいらない。私が欲しいのは、唯一無二と言われる真の愛の対象。その地位なのだ。さあ、ふしだらで中途半端な浮気者、私を愛せ。


、あいしてるよ」
まずはその薄っぺらいあいを囁く唇を、本物の熱っぽい唇で塞いであげる