空が、とてつもなく青いのだ。
雲が、とてつもなく白いのだ。

太陽が、とてつもなくギラギラしてるのだ。
歩幅が、とてつもなく違うのだ。

お前は、とてつもなく輝いているのだ。
俺は、その隣で笑っているのだ。


俺は、お前という女が、とてつもなく好きなのだ!


繋いでいた手が、ずるずるする。ちらりと、が俺を盗み見たのが分かった。俺は気づいていない振りをして、彼女の白い指先にゆっくり、自分の指をからめていく。まっすぐ前を見て歩きながらも、隣の女の子の様子が、表情がよく分かる。素直に恋人繋ぎしたいって言えばいいのに、照れ屋め。俺の指よりずいぶん細い指をからめとる、俺の指。きゅっと、握りしめた。それにしても今日は、いい天気だ。


「つなくん」
「ん?」
「、うん、」
「なんだよ、」
「ううん、なんでもない」
「……へんなやつ」


俺の指と指の間におさまっているの指に、きゅっと力がこもった。はじめて、隣の女の子の顔を見る。リップか何かがぷるりと強調している唇が、なんだかうれしげにカーブを描いている。笑って、いる。へんなやつ。、と俺が小さく名前を呼ぶと、ん?と俺と同じように返事をした。そして俺も同じように、うん、と返す。なぁに、と彼女は言う。ううん、なんでもないよ。俺は言う。彼女は。


「つなくん、公園行きたい」
「公園?いいけど、なんで?」
「いい天気だし、ベンチでお話でもしようよ」
「うん、いいかも。ならコンビニ寄って、何か飲み物でも買っていこうよ」
「うん、それがいい」
「それにしても、いい天気だなぁ」
「うん、そうだね。ねえ、イタリアに着いたら、すぐに婚約発表するの?」
「そうみたい。実感湧かないよなぁ、自分のことなのに。っていうか早すぎない?俺らまだ18だしさ」
「そんなこと言って、つなくん今頃になってもっと遊びたくなったんでしょ」
「うーん、そうかも。もうちょっとと恋人同士でいたいなぁ」
「……そういう意味じゃないよ、もう。ねえ、わたしの旦那さんになる気あるの?」
「あるよ!こそ、俺の奥さんになる気あるの?」


信号がちょうど赤になってしまって、俺達は立ち止まる。横断歩道の向こう側、コンビニの駐車場で座り込んでいる中学生を見て、店内から出てきたスーツの大人を見る。俺はどちらかというと、コンビニの駐車場でたむろしてる中学生に近くて、あのスーツの大人みたいになるとは、どうも思えない。けど、確実に、俺はあの姿に近づいていってるのだ。声変わりをして、背だって伸びて、昔は俺と変わらなかったが小さく見える。実際、俺の方がずいぶん大きくなってしまった。信号が青に変わって、俺と彼女はまた歩き出す。そういえば昔は、信号がちょうど赤になったなら、そのまま走って渡っていた。やっぱり俺は、確実にスーツの大人に近づいていっている。でもそれは、俺より小さい俺の隣の女の子を守る為に必要なことで、無茶というのは出来る限りしてはいけないのだ。いつからか、俺はコーラよりコーヒーを好むようになっていた。


「あっという間だったなぁ、つなくんとの恋人期間」
「でもまぁ、婚約してすぐ結婚ってわけじゃないし、しばらくは今と同じだよ」
「でも、一緒に暮らすことになるじゃない」
「俺は嬉しいけどね。いつでも好きな時にに逢える」
「どうだかね。だってつなくん、イタリア着いたらきっとすごく忙しいよ。わたしに構ってる時間ないよ」
「……素直に言えよ、さみしいって」


しょうがないなぁ、素直じゃないんだから、この照れ屋。ふ、と笑うと、指と指との間に、細い指が押しつけられる。ぎしぎし、骨まで軋んじゃいそうだなぁ。俺より小さいくせに、俺より全然力のある彼女。夫婦になっても、この力関係は変わらないよなぁ。ボンゴレのボスが奥さんには敵わないなんて、ちょっとかっこわるいかなぁ。コンビニを出て、公園を目指してまた歩き出す。そういえば、あの公園のベンチ、そろそろ塗りかえるって話だったような気がする。困ったなぁ、これは彼女に言うべきだろうか。言ったら、怒るだろうなぁ。でも、言わなくても怒るだろうなぁ。はいい子のくせに、俺にだけはわがままなのだ。イタリアに行ったら、まず敷地のどこかに公園を造るってどうだろう。あの公園と同じようなヤツ。ベンチの色は、少しくすんだ青色。は、また、俺に指をきつく押しつけてくるだろうか。


「なに笑ってるの、」
「ん、別に、なんでもないよ」
「うそ!なぁに、気になるよ!」
「うーん、言ったらきっと、怒るよ」
「なおさら教えてよ!…もうっ、笑ってないでよ!」

ぷりぷり怒るお前の手をきつく握り締めて、とにかくあのベンチへ向かうのだ。