普段優しい人ほど、怒った時ものすごく怖い。 これって、本当だ。 「、どうして呼ばれたか、分かるね」 「ええと、」 「分かるね」 「は、はい、わかり、ます、」 すっとぼけてみようか、と思ったものの、ボスのにっこり笑顔の前に玉砕。 そう、笑顔だ。 ボスはいつも優しい笑顔を浮かべている。 確かに口元はゆるくカーブしてるし、目もふと細まっている。 ……実際、目は全然笑ってないし、口元もよーく見ていると時々ひくりと引きつっているのだけど。 これは、いつもの優しい笑顔ではない。 ボスは今、とてつもなく怒っている。 「深追いはするなと、言っただろう」 「……あそこで逃がせば、ボンゴレにとって不利な状況になると思って、」 「アイツらを捕まえたって、君が怪我をすれば同じことだよ」 「っでも、あたしは自分のしたことを間違いだったとは思ってないです!」 「……なら、君をもう前線へはやらないことにする」 「な、なんで……っ、どうしてですかっ、あたしは、ボンゴレのために……っ!」 じわり、と視界がぼやけて、ボスの表情がゆっくり見えなくなっていく。 さっきまでは痛いと思わなかったのに、銃弾の掠めた腕や足が、じんじんしてきた。 身体中の骨が、軋むように、痛い。 子どもの頃、マフィアの抗争に巻き込まれて家族を失ったあたしに手を差し伸べてくれたのは、他でもない、マフィアだった。 心が広く穏やかな、優しいマフィア。 その人は、欲望と陰謀が渦巻く裏社会での、唯一の正義だった。 あたしはその正義についていきたくて、それから今まで、ずっとボンゴレの為に尽くしてきたつもりだ。 マフィアを憎みながら、マフィアのトップ組織の中、あたしなりの正義を貫く為に、マフィアとして。 唇を噛むと、ゆっくり血が浮かんでくるのが分かった。 少しずつ、切れたところが熱をもってくる。 「ボンゴレの為なんかに、君が命を危険に晒すことなんてないんだよ」 キィ、と軋んだ音がしたかと思うと、立派なデスクを離れて一歩、また一歩とボスがあたしに近づいてきた。 目の前までくると、そっとあたしの唇に指先を滑らせて、血を、拭う。 白い指を、あたしの血が汚している。 そういえば9世も、あたしが怪我をして帰ってくる度、よくそんなようなことを言っていた。 ボンゴレの為に命を危険に晒すなんて、そんなことはしてはいけないよ。 9世は、悲しそうに笑って、困ったように、そう。 「……9代目にも、よく言われただろう?ボンゴレの為に、命を危険に晒すことはないって」 「………、言われ、ました、」 「9代目に比べれば、俺はまだまだ頼りないボスだろうし、信頼には足らないかもしれない。 けど、君がこんな怪我をしてまで情報を手にしなければならない程、弱くはないつもりだ」 「あっ、あたしは、いらないって……、そう言いたいんですか……?」 「そうじゃない。大事な部下に、情報の為に死んでくれと言えないって言ってるんだ」 「……意味が、わかりません、」 「マフィアのボスなんてやってても、それ以前に俺だってただの人間だからね。 大事なものを守りたいと思うし、貫きたいのはそういう正義なんだよ」 よく、分からない。 だって、大事なものを守るために、あたし達は、あたしは、戦っているんじゃないの? あたしの言う正義は、9世やボスが言ってる正義とは違うんだろうか。 「……あたしは、……あたしはただ、」 「今すぐ、分からなくてもいいよ。これから俺が、教えていってあげる」 いつもの優しい笑顔を浮かべて、ボスは言った。 なんとなく居心地の悪い気分になって、床を睨みつける。 「、ボスの正義のために、あたしに出来ることをするだけです」 「………うん、期待、しているよ。でも、ひとつだけ、覚えていてね」 |