沢田綱吉はイケメン


同じクラス、隣の席の沢田綱吉君は、とんでもなくイケメンです。
彼の背中にはいつも薔薇が咲き誇っているし、なんかこう、きらきら輝きが見えます。

優しくて正義感のある好青年だし、成績もいいし、ともすれば自然と王子様っていうキャラ設定が出来上がり。
ファンクラブなんかも出来ちゃったりして、会員数とかグッズとか、たぶんその辺のアイドルにゃ負けません。

今日はその並高のプリンス、沢田綱吉君の1日を追ってみたいと思います。
次回の並高新聞、沢田王子特集のため、沢田君と同じクラスで隣の席の新聞部の名に懸け、精一杯励みます!




♪プリンスは朝から爽やか


校門にて沢田王子発見。


「あー、沢田くんおっはー。今日さむいねー」
「おはよう、うん、今日は少し冷えるね。身体、冷やさないようにね?」
「っ、う、うん、ありがとー、」


ふむ、同級生の心はばっちし掴んでいるようです。
朝からなんとも大胆な発言!
本来ならただのセクハラと切り捨てられるところを……、さすがプリンスです。


「綱吉くん、おはよー」
「おはようございます、今日もお綺麗ですね、先輩」
「っも、もう、綱吉くんったら〜」
「あはは、ホントのことですよ」


なんということでしょう、上級生の心もしっかりゲットしている模様!
さすがプリンス、褒め言葉が嫌味ないです。
先ほどの対同級生の時より、笑顔がどことなく幼く見えるのはやはりプリンスの技なのでしょうか。
お姉さま、激しく胸キュンの様子です。


「あっ、沢田せんぱ〜いっ!」
「おはよう、俺に声をかける為に走ってきてくれたの?嬉しいな」
「っ、さ、さわだせんぱい……」
「今日は少し寒いから、早く教室行きなよ?風邪ひいたら大変だ」
「はっ、はい、」


ついには年下まで攻略しましたか。
さすがプリンス、もう彼を抑えられるものは何もありません。
対上級生の時のあの無邪気な微笑みはどこへいったのでしょう、なんだか妖しい雰囲気がセクシーです。
……それはちょっと刺激が強すぎるのでは?


まとめます。


沢田王子は朝から完璧に王子様であります。
しかも全方向に対して万全の対策……、うむ、さすが並高のプリンスです。




♪プリンスは昼から大変


「ツナくんツナくん、お昼いっしょにたべよー!」
「ごめんね、今日はちょっと。残念だけど、また誘ってくれる?」
「そ、そっか、ううん、ぜんぜん!じゃあまた今度一緒にたべよーね!」
「うん、じゃあ」


さすがプリンス。
お昼のお誘いを断るのもまたお上手です。
あんな風に微笑まれてしまったら、引きさがるしかないでしょう。
でも、女の子を嫌な気持ちにさせないのは素晴らしい!


「よかった!綱吉くん、まだ教室にいたのね。ねえ、お昼一緒に食べない?」
「わざわざ迎えに来て下さったんですか?……でも……、参ったな、今日はちょっと……、」
「え〜っ、せっかく急いで来たのにぃ!」
「すみません、先輩。俺もぜひご一緒したいですけど……、今日は無理でも、また誘ってくれますか?」
「っ、綱吉くんずるい!もう、しょうがないな〜、約束だよ?」
「もちろん、先輩との約束、俺が破るわけないでしょう?」


さすが先輩、食い下がる。
はたして沢田王子はどう対応するのだろうかとはらはらしておりましたが、やはり王子。
いらぬ心配だったようです。
先輩方も嫌な思いをせず、むしろ嬉しそうな顔をしていらっしゃいますし、うん。
女の子の扱いがお上手なこと、大変結構です。


お弁当箱を持って教室を出る王子、さて、一体どちらへ?


「あっ、沢田せんぱいっ!これからお昼ですか?獄寺先輩と山本先輩は?」
「うん、今からだよ。残念だったね、俺今日はふたりと別行動なんだ。ふたりならまだ教室だよ」
「っ、ち、ちがいます!あ、あたしは、さわだせんぱいとたべたくて……」
「本当に?ふふ、それは嬉しいな。でもごめんね、今日はちょっと都合が悪いんだ」
「……それって、もしかして彼女と約束でもしてるんですか?」
「彼女?なに、もしかしてそういう噂でもあるの?」
「……さわだせんぱい、毎週木曜日は絶対、誰に誘われても断るって、それで、」
「毎週木曜日は彼女とお昼デートって?ふふ、いやだなぁ、そんなわけないだろ。生徒会の仕事だよ」
「………ほんとですか?」
「うん、嘘だと思うなら、風紀の雲雀さんに確認してごらん?一緒に仕事してるから」
「っ、いいですっ、じゃあ、明日は一緒に食べてくれますか?」
「ふふ、君が俺のところに一番につけたらね」
「〜っ失礼します!」


下級生、粘りました。
これはある意味、彼女の勝ちといえるでしょうか。
興味深い話をゲットです。


まとめます。


沢田王子はどうやら昼からがお忙しいようであります。
そして、火のないところに煙はたちません。


さて、面白いことになりそうですが……?






「……いい記事書けそう?






メモに走らせていたシャーペン、の芯が、ぱきりと折れた。
はっと顔を上げると、不機嫌そうに眉間にしわを寄せて、困った顔でわたしを見下ろす……沢田王子。
事前にお願いしてたとはいえ、こそこそつけ回されちゃ嫌に決まってる。
ま、おかげで直接インタビューするよりも自然な王子様のことが書けそうで、こちらとしては助けるけど。


でも、沢田王子に女の影っていう噂は、ちょっといただけない。
沢田王子と同じように、わたしの眉間にもしわが寄る。


「うん、記事のネタはだいぶ集まりました。……けど、誰かに聞かれたら困るでしょ?ってやめて」
「俺は聞かれたって構わないよ……っていうか、なんで付き合ってること隠さなくちゃいけないの」
「付き合うって話になった時、言ったでしょ。沢田王子に彼女なんかいちゃまずいんだってば」
「それ誰の都合だよ。っていうか王子って……、はいいの?俺が、他の女の子と仲良くしてても」
「わたしの都合!……、そりゃあ、ちょっと嫌な時もあるけど、」


でも、わたしのくだらない嫉妬心よりも、沢田王子の方がずっと大事だ。


新聞部として、色々情報集めて校内を駆け回っていると、よく分かる。
誰もが憧れる王子様、沢田綱吉。
女の子達の、毎日同じように流れる時間の中、色どりを加えてくれる王子様。


そういう王子様っていうのは、特定の誰かのものにはなっちゃいけない決まりがあるのだ。
彼女なんかいたら、王子様は王子様じゃなくなってしまって、ただの男の子になってしまう。




王子様っていうのは乙女の夢で、希望だ。




「……それをさ、わたしが壊しちゃ、いけないと思うんだよねえ、」
「………そんな風に思ってんの、お前だけだよ。大体、王子様だとお前の傍にいれないなら、俺はただの男になりたいよ」
「だめ!イケメンっていうのはみんなで楽しむものなの!」
「……じゃあなんで、毎週木曜日は一緒にお昼食べようなんて、そんなこと言い出したんだよ」
「そ、れは、」
「雲雀さんにまで口裏合わせてもらって……、まぁ、噂がもう出回ってるみたいだけど」
「……っ、」
「本当に隠したいなら、こういう密会もアウトなんじゃないんですか?」


そうだけど、そりゃそうだけど……、察してよ!


本当は、わたしが綱吉の彼女だって堂々宣言してやりたいのだ、わたしだって。
でも、並高のプリンスなんて言われてるこの人の相手がわたしじゃ、申し訳なくて仕方ない。


……ま、そんなのも言い訳で、あんなのが彼女?似合わない、とか言われて、自分が傷つくのが嫌なだけだ。


「…………じゃあ、やめよ。木曜日、一緒にご飯食べるのも。……、そうしたら、別れた方がいいのかな、」
「っなんでそうなるんだよバカ!……っそうじゃなくて、なんで堂々と付き合ってるって言わないんだよ……っ!!」
「、だって、だってそれじゃあ、」
「王子とかファンとか、大事なのはそうじゃなくて、お前と俺の気持ちだろ?」
「で、でも、」
「じゃあお前俺のこと嫌いなのかよ!!」
「っち、ちがう……、すき、なんだもん、」
「………考えてること、大体分かってるし、あんまり強いことは言わないけど、一言だけ」
「……うん……って、へっ?!」


「お前よりも俺に相応しい女の子なんて、どこを探したっていやしないよ」




*********
さて、後日談です。
*********




静かに嫉妬心をめらめらさせながら、一生懸命集めたわたしのネタは、結局使われることはなかった。
沢田王子の特集であることは変わらなかったのだけど、内容は王子の1日でなく、


イケメン沢田王子とその麗しの彼女、になっておりましたとさ。


(嘘はいかんよ、嘘は)(どこがだよ、イケメン王子とその麗しの彼女、まんまじゃん)(いや、イケメン王子はいいんだけどさ、)(……が知らないだけで、お前は魅力的だよ)(さむいこと言わないでよ王子)(肝心の本人がこれだから、俺はずっと苦労してきてんだよ。お前の知らないところでね(獄寺君と山本、あげく雲雀さんまで頼ってお前のロッカーやら下駄箱やら、誰にも気づかれないように掃除してるんだから)