いい あのひとが、あたしを口説こうと必死です。




「、、」
「なあに?」
「、いや、なんでも、」


人工の光で、きらきら輝く夜の街。
色取り取りのきらめきは、まるで宝石のよう。
店内には無駄なノイズは一切なくて、雰囲気たっぷりの洗練されたジャズが流れている。
まぁ、掴みは合格点。




かわいいあのひとを、俺は口説こうと必死です。




「……あ、あの、き、きれいだね、」
「夜景が?それとも……、あたしが?」
「、もちろん、君が、」


夜景の綺麗なホテル、美味しいディナー、ロマンチックな雰囲気な用意出来ても、全然駄目だ。
俺がもっと器用な男であったなら、彼女を喜ばすことだって出来たんだろう。
きらきら光って美しいのは、この景色と、彼女を包む雰囲気と、彼女自身、それだけ。
彼女に相応しくなりたいという気持ちは、俺を成長させず背伸びばかりさせる。




かわいいあのひとが、あたしを口説こうと必死です。




「綱吉、」
「へ、あっ、ごめん、ええと、なんの話をしてたかな……?」
「ふふ、いいえ、何も。ただ、あなた、とっても難しい顔をしてるから、」


もちろん、女心を擽るような素敵なデートプランは大好き。
でも、あたしがもっと喜ぶものを、このかわいい恋人は知らない。
元々この人はあたしに相応しい男ではなかったけど、あたしだって彼に釣り合うような女ではなかった。
ボンゴレ守護者までランク分けして、常に自分を楽しませるイイ男を探し、とっかえひっかえな悪い女。




かわいいあのひとを、俺は口説こうと必死です。




「……ごめんね、俺は君を喜ばせてあげたいと思うのに……、君の望むように、うまく出来ない」
「――――――ふふ、バカね。あたし、あなたのそういう所が気に入ってるのよ」
「……、え、」


綺麗で賢くて、駆け引きの上手なこの人は、今まで沢山の男を見てきていて、知っている。
俺はその沢山の中で、一番魅力のない男だと思う。
それなのに、今この人は、なんて言っただろう。
あの骸や雲雀さん、リボーンまでもを上手に手懐けた素敵な小悪魔は、今、なんて?


「結局は、何が上手に出来ずとも、あたしを喜ばせようと一生懸命な人が一番可愛いのよ」


完璧にエスコート出来なくても、甘くとろけるような台詞が言えなくても。
君の求める完璧な男じゃなくても、俺を愛してくれると言うの?


参ったなぁ、これじゃあいつまでも俺だけが、君に溺れてなくてはいけないみたい。