おれはほんと、ろくでもないおとこだから。 いい加減、にも分かってもらいたいなぁ、そうでなければいけないなぁ、と近頃よく思う。だっておれなんかと一緒にいたって、は幸せになんかなれないのだ。おれと一緒にいたら、一生幸せになれないのだ。それはおれがを幸せにする気がないとかじゃなく、おれがどんなに彼女のためにと一生懸命働いても、がんばればがんばるほどに、は幸せから遠ざかっていって、終いには不幸せが隣でわらうことになる。現に、今、の周りには不幸が、たくさん、たくさん、あるでしょう。それは全部おれのせいなのに、はおれをかわいそうと言う。そうやって自分を責めなくていい、つなよしはなんにもわるくないよ、となぐさめてくれる。ちがうのに。でもおれは、ほんとうのことを言わない。が、不幸の元凶がおれであると気づいてしまうのは別に、おれはにはしらないでいてほしい。だっておれは、 ずるい 「あれ、どうしたの?まだ仕事あるんじゃ、」 連絡もなしに仕事場に押しかけたのに、はおこらなかった。は画家。ここはの仕事場だけど、ここはの家だ。ただきょとんとしているに、わるいなぁと思いながら、おれってろくでもないなぁとやっぱり思って、じっとのめを見つめた。きょとんとした顔がだんだんと困ったような、悲しいような顔になってきた。なんでもいいや、てきとうに、そう、びょうき、具合が悪いことにしよう。 「気分がわるいから、」 「ええ?ならお屋敷で寝ていればよかったのに、わざわざここまで来て……」 「……、ねかせて、」 「うん、ベッド使っていいよ。ねえ、獄寺さんにここへ来ること言ったの?」 「……ううん、言ってない」 「だと思った。つなよし、うちに来るのはいいけど、ちゃんと獄寺さんとかに言ってからじゃないと」 おれってろくでもないおとこなのに、どうしてほんとうにろくでもない生き方をさせてくれないんだろうか、誰もかれも。だからおれはこんなにも中途半端で、そのことにどうしようもなく落ち込んでいる。だれも、たすけてくれない。でも、おれが元気になれるようにって、おれの手をひっぱって、立たせようとしてくれるひとはいるのだ。は、そうだ。おれのこと、なんでも一生懸命がんばれる子、なんて思っているから。ちがうのになぁ、も仕方のない子だなぁ、おれはろくでもない男なのに。具合なんか悪くないのに全部放り出して、無責任にも逃げ出したりして。そして逃げ込んだのが、ここ。がおれを、ひっぱたいてくれればいいのに。そうしたら、ぜんぶ諦めがつくのになぁ。そうやって自分自身の内面的なことまで人に押しつけて、ああ、ろくでもない。 「……ぐあいが、わるいんだ、おれは。でも獄寺くんにそう言って、にあいたいって言っても、 きっときいてくれないもの。を呼んでっていっても、きいてくれないよ、きっと、絶対」 「そんなことないよ、獄寺さん、つなよしによくしてくれてるじゃない。呼んでくれればよかったのに。 それより、はやく横になろう。どこがくるしいの?病院とか行かなくてだいじょうぶ?車出せるけど」 「ううん、いいよ。すこし気分が、わるいだけだから。それより、今日はずっと、おれのそばにいて」 自分のずるさが、嫌だ。きもちわるい。でもおれは、そういうずるさを捨ててしまいたいとは思わないからろくでもないのだ。だって、なんでも自分に都合よくしたいから、ずるをするのだ。ずるさとは、自分のこころだと思う。自分に正直であればあるほど、ずるい人間なのだ。だからおれは、ろくでもない。のことを幸せになんか出来ないおとこ。を守るため、一生懸命仕事をするということは、以外の人間を殺すということだ。それは敵をつくることと同義だから、を守るために振りかざした力のせいで、のことを危険な場所に引きずり込んでしまって、ほんとうはこの家兼アトリエの小さなお城の周りには、物騒にも完全武装した屈強なうちの精鋭が常時たくさん、の夢のお城を守るために控えている。なにがあっても、いいように。を幸せにしようとすれば不幸せになって、を守ろうとしては不幸になる。はいい加減、気づかなくちゃいけない。おれが、ろくでもないおとこだってこと。はやく、はやく。なのに、おれは彼女にさようならを言えない。突き放すことも出来ず、それどころかいざという時、どう引き止めるかとか、そういうことばかり考えているのだ。ああ、ろくでもない。 「うん、もちろん。看病、するよ。つなよしが元気になるまでずぅっと、そばにいてあげる」 「ほんと?」 「うん、だからだいじょうぶ。少し寝なよ。ここにいるから」 「……うん、」 がおれから解放(はな)れられないのも、ほんとうは何もかもわかってるのも、全部ろくでもないおれのせい。ずっとそばにいてほしいと言えば、ずぅっとそばにいてくれる。その愚かな優しさにおれは溺れてしまっていて、その心地よさに死ぬまで浸っていたいから、今日も何も言わず、おれはただただ思うのだ。ああ、おれってろくでもないおとこ。ああ、おれってほんと、 |